The race must go on

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【2011.10.16】
インディカー・シリーズ最終戦(中止):ラスベガス・インディカー・ワールド・チャンピオンシップ
 
 
 このブログでインディカー・シリーズについて書いたことは何度かある。たとえば昨年のインディ500で起こった危険なクラッシュから生還してロングビーチで歓喜の初勝利を挙げたマイク・コンウェイや、実力のわりにどうも不遇を託つことが多かったなかどんな脚本家も思いつかないようなストーリーでブリックヤードを制した彼を称えた記事だった。それを後から振り返ってみるとなんだか理由のありそうなことに見えてくるが、そういう脈絡のないものに対してありえなかった意味を見出そうとするのは人が犯しがちな悪い癖だ。偉大なドライバーがとつぜんいなくなってしまった、その覆せない事実をただ悲しむだけでいいはずなのに。

 2年続けてダリオ・フランキッティとウィル・パワーがタイトルの権利を賭けて臨んだラスベガスでのインディカー・シリーズ最終戦は、既報のとおり悲劇のうちに幕を降ろした。事故が起こった瞬間だけ見ればオーバルレースにありがちな2台の単純な接触で、たいていの場合は後続もなんとか急減速で難を逃れ、危ないながらもイエローコーションでレースを仕切り直して済むようなことのはずだった。そこで何が起こったのかいまもよくわからないし、まだ確認するような気分にもならない。とにかく何台かのクルマはタイヤ同士の干渉によって宙を舞い、後続も次々に追突して、一転して深刻なアクシデントへと拡大した。

 レースはすぐに赤旗によって中断され、それでもまだ最悪の事態を悲観しなくてもよいと思えたのは、何度も繰り返された悲しい事故を越えて危険を排してきたインディカーの安全性を信頼できたからだ。かかわった15台という数はともかく、もっと危険に見えるクラッシュシーンだって幾度か目にしているし、それこそ昨年のコンウェイのように、事故の当事者たちはみんなしっかりサーキットに戻ってきた。今回のラスベガスの大クラッシュがもし歴史に刻まれるとしたなら、最終戦までもつれたタイトル争いにいきなり水を差し、フランキッティに王座をもたらすものとして記録される程度のことでいいはずだったのだ。

 なのに赤旗はしまわれることなく、ダン・ウェルドンだけが帰ってこなかった。たった半年前に100年目のインディ500を彩る美しいおとぎ話を紡いだウェルドンは、本を閉じれば物語が終わってしまうのと同じように、不意にわれわれの前から姿を消してしまった。そうして今季最後の5ラップは彼の魂に捧げられた。

 事故の原因なんていくつも挙げられるだろう。ラスベガスが高速オーバルだったこと、シーズン最終戦のお祭りムードの中で経験を残したい新人や若手が多数参戦していたこと、ウェルドン自身が最後尾スタートからの優勝に巨額の賞金がかかる500万ドルチャレンジの最中で不必要に後ろにいたこと、そもそもオーバルレースの特性がそういうものだということ……。ただそれとて事が起こらなければ存在しなかった「理由」だ。結局だれだってこれをレーシングアクシデントだと言うしかなく、その判断は事態の深刻さとはまた別種のことである。しかし原因が無垢だからこそ、この事故にかかわったひとは、たとえテレビで見ていただけのファンであっても、辛く思う。

 モータースポーツには不慮で不可避な悲劇がときにあるということを、われわれはまたも眼前に突きつけられてしまった。これからだれかがウェルドンについて語ろうとするとき、話題の真ん中にはつねに死という悲嘆が残る。前にも書いたように、それは1人の力のないファンでさえ向き合わなければならないことだ。われわれは、追悼のパレードラップで低く唸る排気音と『Amazing Grace』の響きを、肩を叩かれながら大きくついたトニー・カナーンのため息を、悲しみにくれる関係者の整列を、アップで映されたダリオ・フランキッティの嗚咽を、悲劇とはあまりに裏腹な砂漠の快晴の空を、辛い思い出としてけっして忘れないだろう。だが、それは絶対にモータースポーツとのかかわりを終えることを意味しない。このスポーツを少しでも愛する人がこれからも愛することをやめないかぎり、レースはずっと続いていく。コンウェイを祝福する記事にコメントをくれたgripenさんは、The show must go onと言った。そうなのだ。次のシーズンが始まれば、ウェルドンの喪失を越えてドライバーはそれぞれのコクピットに収まり、ひとたびエンジンがかかったクルマは物理の塊以外の何物でもないまま事故の記憶とは無関係に加速を続ける。そうでなければいけないし、またそうであっていい。前を向こう。モータースポーツは偉大なドライバーを失った。だがそれがどれほど悲しいことであっても、モータースポーツという営みだけは失われないのだ。

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