整然としたナッシュヴィル、整然としたカイル・カークウッド

【2023.8.6】
インディカー・シリーズ第13戦 ビッグ・マシン・ミュージック・シティGP
(ナッシュヴィル市街地コース)

レースに先立って、ミュージック・シティGPの今後が発表された。2024年からは現在のコースを変更し(中心として使用しているニッサン・スタジアムが改修に入るという事情もあるようだ)、シーズン最終戦として開催されることになる。今年でまだ開催3回目の「新参」が、フィナーレの舞台に選ばれたわけだ。GAORAの中継では、当初は懐疑的な声もあったナッシュヴィルの街にこの新しいイベントが認められ、歓迎されている証だといった話題で盛り上がっており、現に今年も25万人以上の観客を集める大成功を収めた。発表に際してペンスキー・エンターテインメント・コーポレーションのCEOであるマーク・マイルズが「ビッグマシン・ミュージック・シティ・グランプリはわたしが夢にも思わなかったようなレベルにまで成長している」とご満悦なコメントを残しているように、音楽の街の真ん中を走り抜けるレースは望外とさえ言える想像以上の人気を博している。現在の最終戦を行うラグナ・セカは名コースではあるものの砂漠に位置するサーキットで集客面ではどうしても不利だったから、特に熱量という点においてナッシュヴィルはシーズンの掉尾を飾ってくれるだろう。

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カイル・カークウッドの正体

【2023.4.16】
インディカー・シリーズ第3戦

アキュラGP・オブ・ロングビーチ
ロングビーチ市街地コース

たしかミッドオハイオだっただろうか、昨年の夏、カイル・カークウッドがコースを飛び出し、グラベルか芝生かの上であえなく止まったレースがあったのである。ちょうどピットストップの狭間の時間帯にフルコース・コーションを引き起こし、展開を乱しかけたせいもあって印象に残るDNFだった。テレビ画面が、動けなくなったA.J.フォイト・エンタープライゼズの黒い14号車から、ドライバーが脱出しようとしている様子を映し出している。レースを諦めた新人に対してそのとき抱いた感想は「またやってしまったか」といった後ろ向きなものだった。それは皮相な批判的物言いではなく、奥底に秘められているであろう才能がなかなか表出してこないもどかしさの表出だったのだと思う。そのような感情が自分のなかにあることを自覚して、ならばとばかり、一度このミッドオハイオについてカークウッドをテーマに書きはじめてみたのだが、いざまとめようとすると気持ちとは裏腹に負の面が前に出る文章になってしまいそうで筆が乗らず、数百字で断念した。2021年のインディ・ライツ王者。アンドレッティ・オートスポートの育成に乗って順調なキャリアを歩み、2022年はフォイトにレンタルされるような形でインディカー・シリーズにデビューを果たしていた。足跡が示すとおり速さの片鱗はほのかに見えていたものの、まだ肯定すべき具体的な場面は持っていなかったころの話だ。

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