チーム・ペンスキーは自らアレックス・パロウに味方した

【2024.7.21】
インディカー・シリーズ第12戦
オンタリオ・ホンダ・ディーラーズ・インディ・トロント
(トロント市街地コース)

いやはやなんとしたものか、「ほら、言ったとおりだろう?」とでも嘯いて賢しげな顔をしてみればよかったのだろうか。トロントの市街地レースである。あたかも前回のアイオワで書いた内容が予言であったかのように、チーム・ペンスキーのドライバーたちを彼ら自身の現状そのものへと導いていった。いつまでも噛み合わないジョセフ・ニューガーデンと、安定を振り捨てて危険な領域に飛び込む情動に身を任せるかつての自分に回帰したウィル・パワー。チームメイトに翻弄されたスコット・マクロクリンの結末を含め、ペンスキーは随所にトップチームとしての速さを見せながら、レースでの戦い方を制御しきれないでいる。インディアナポリス500マイルはもちろん、ロード・アメリカでも完璧に機能したし、ダブルヘッダーの両方を勝ったアイオワもスピードは文句がなかった。ピットワークにも優れ、多くの場合にドライバーを助けている。だが、にもかかわらず、彼らはしばしば手酷い、致命的な失敗を犯してレースをすっかり失って、気づけば追い込まれてしまっている。

 チップ・ガナッシ・レーシングのアレックス・パロウにとっては、非常に困難なレースだった。現在選手権で首位を走る昨季のチャンピオンは予選の第1ラウンドで進路妨害のペナルティを取られ、18番手の後方からトロントをスタートした。もちろん、多少の劣勢ならレースのうまさで跳ね返してしまうのがパロウの強みではあるのだが、最初のスティントを見るかぎり、この日に関しては他を圧倒して逆転できるだけのペースも持っていないように感じられた。スタートの混乱のお陰で3つ順位を上げはしたものの、しかし1回目のピットストップに至るまでずっと15位だかを走っているのだ。何かを起こせる雰囲気はなかった。ペンスキー、アンドレッティ・グローバル、アロー・マクラーレンSP、チームメイトのスコット・ディクソン……と、確実に互角以上の速さを備えて上位を走る相手を数え上げていけば、パロウにとってはうまくやって10位くらいが精一杯の、要するに目をつぶって我慢する以外にないレースだった。とはいえインディカーとはそういうもので、コースの得意不得意とはまったく別のところでなぜだか奮わない日はある。チャンピオンといえどもそれは変わらない、仕方のない日常のひとつだ。結局コース上での見せ場はさほどなく、自力ではまったくと言っていいほど順位を上げられなかったパロウは、どうにかして4位でチェッカー・フラッグを受けたのだった……おや?

 冗談としか思えない顛末だ。実際、このトロントでパロウが何をしたというのだろう。書いたとおり18番手でグリーン・フラッグを迎えたパロウは、最初のターン1で発生した3台の接触に乗じて16位に、さらに再スタート直後、ターン4でディクソンとの並走に敗れて曲がりそこねたアウグスティン・カナピーノが単独で壁に刺さって15位になった。自分とは無関係に上位が潰れて労せず順位が上がったわけだった。その成り行きにけっして深い意味はない。後方にいれば事故に遭いやすくなる一方で、単純な確率の問題としてこの手の恩恵に与る機会も多いといった程度の話で、パロウのレースに光明が指すような出来事とは思えなかった。だが終わってみれば、ちょっとした幸運でしかなかったこの始まりを前兆として、パロウはあたかもレースそのものに手招きされ導かれたような結末を迎えた。18番手スタートで、追い抜きはほとんど見せられず、少数派の作戦を採って奏功したわけでも、圧倒的なピットワークがあったわけでもない。前方ではあまり変わらないスタート位置だったチームメイトのディクソンが、最初のスティントを引っ張って6位にまで押し上げる力強いレースを見せているのに比べれば、ごくごく平凡な、パロウらしからぬといえばらしからぬ一日だった。46周目のターン3へのブレーキングでは、マーカス・エリクソン相手に守備的なラインをとったにもかかわらずものの見事に潜りこまれ、あっさりと抜かれた。そんな具合に間違いなく内容的には芳しくない走りだったというのに、この選手権リーダーは順位だけを嘘みたいに上げていったのである。(↓)

18位スタートで苦しむかと思われたパロウは、労せずしていくつも順位を上げていった。

 たとえば57周目、パロウを抜いた後も好調にレースを進めて表彰台も窺える位置にいたエリクソンが、タイヤ交換を終えてピットから出ていった直後のターン3で、やはり力強い戦いを見せていたフェリックス・ローゼンクヴィストからの強引なダイブに曝された。ブレーキングを我慢しすぎ、ロックしたタイヤから派手に白煙を上げて突進してきた同郷の元チームメイトに対し、まさに旋回を始めるところだったエリクソンはかろうじて反応して接触を避けたものの、両者ともコーナーを曲がりきれずに退避場所へと飛び込んでいった。こうして上位の2人が後退し、無関係なパロウの順位も上がる。あるいは73周目、6位のパト・オワードがターン2でいきなりリアを振り出して単独スピンを喫する。コーナーの外側のレコードラインまで滑って停止した車に後続が次々と激突して赤旗に至った大事故を、オワードのすぐ後ろを走っていたパロウはスピンの瞬間にインへ回避したことで無傷で潜り抜けた。これらだけで都合3つも「得」をして、10位前後だったはずのレースが気づけば悪くない場所に位置している。

 終わってみればリードラップに12台しか残れず、無事に走りきりさえすれば12位は約束されたレースで、18番手スタートのパロウにとってみればそもそも僥倖だったのだ。そしてそんなパロウを誰よりも後押ししたのが、ほかでもなく、最大のライバルであるべきペンスキーだった――と、話を彼らの現状の理解へ戻すことにしよう。コルトン・ハータとカイル・カークウッドのアンドレッティ勢が盤石の1-2態勢を築くレースではありつつ、それでも全員がパロウより前からスタートし、表彰台を狙う十分な速さも持っていたペンスキーの3人は、しかし3人とも勝手に自滅して終わった。ニューガーデンは3位を走っていたにもかかわらず、2回目のピットストップを終えて発進する際にエンジンがストールして大きく時間を失い、パロウの後ろに下がってしまった。それでも上位に戻れるだけの力はあったはずだが、赤旗からの再開後にターン3でパロウを攻めようとして逆にデイヴィッド・マルーカスの追い抜きを許し、ターン5で抜き返したものの直後に追突を受けてリアタイヤがパンクする憂き目に遭った。余分なピットストップを行ってからの数周で逆襲の機会はなく、結局11位、リードラップの下から2番目に終わる。どうしても噛み合わないニューガーデンの日々は終わる気配がない。そのうえまた、誰あろうパワーである。ここ数戦の文章で、安定感をかなぐり捨てて刹那の攻防に興じるかつての切れ味が戻ってきていると評したまさにそのとおりに、パワーはこの日も無謀なブレーキングに殉じた。レースが再開した翌77周目、ターン5に差しかかった彼は前の車が旋回しようと進むまさにその場所へ、とても曲がれるとは思えない速度と角度で進入していったのである。(↓)

レース中のポジションはけっして悪くないが、結果に結びつかないニューガーデン。インディ500を制した一方で、シーズンとしては移籍後最悪の状況を迎えている

 思えば、トロントは自らを落ち着かせようとするパワーの仮面を剥ぎ取って、内なる暴虐性をあらわにしてきたコースでもあった。2013年を思い出すとターン3でダリオ・フランキッティへ突撃して自滅したものだったし、2019年にはターン8でグレアム・レイホールを弾き飛ばし、レース終了間際には同じ場所でタイヤバリアに突き刺さりながらフルスロットルで強引に脱出しようとしたが果たせずに、苛立ちの表出なのか延々とタイヤを回して空転させて白煙を空に放っていたのだった。5年後のいま、これはそんな彼らしさがまたひとつ帰ってきた場面だったのかもしれない。後から流れた車載カメラのリプレイによると、77周目のパワーはあきらかに遅すぎるタイミングで前の車を追い抜きにかかってタイヤをロックさせ、大きくカウンターを当てた。車は旋回する方向から逸れていき、ちょうどコーナーの頂点へ付こうとしていた相手と衝突する。その相手、すなわちチームメイトのマクロクリンは、そうして完全に壁へ追いやられた。

 これもペンスキーにありがちな光景といえばそうだろう。かつてのパワーとエリオ・カストロネベスやファン = パブロ・モントーヤ、またニューガーデンとシモン・パジェノー、あるいはニューガーデンとマクロクリン。インディカー全体がそうではあるが、なかでもペンスキーは伝統的に所属ドライバー間の争いに寛容で、接触すら大きな問題にしない傾向がある。先のラグナ・セカではマクロクリンのほうがパワーに対して強引な攻撃をしたあげくスピンに至っていて(まるで意趣返しのようだ)、今回の事故もけっして珍しい出来事ではなかった。だがそれにしても、4位と5位のチームメイト同士で戦った結果としてはおよそ許容できないものだったと言っていいだろう。マクロクリンは壁に刺さってその場でレースを終え、パワーにはドライブスルー・ペナルティが科せられた。マルーカスを抜き返してふたたびパロウに攻撃する態勢になろうとしていたニューガーデンがパンクの原因となる追突を受けたのは、この事故現場を通過する際に隊列全体が減速したせいである。こうして、ペンスキーは一瞬にして事実上全滅した。パワーに戻ってきた刹那的な振る舞いとマクロクリンの意志の強さが最悪の形で噛み合い、そこにニューガーデンの巡りの悪さがつきまとう。ペンスキーのドライバーたちが過ごす現状が、そのままチームとしての脆さに繋がっている。

 パロウは本来、10位でレースを終えるはずだった。ゴールしてからインタビュアーにマイクを向けられて、肩を竦める以外に何ができただろう。本人は速さに自信があったと述べているが、ライバルたちもまた互角以上の力を持っていたのは明らかだった。だが彼らはことごとくいなくなった(そういえば、アレキサンダー・ロッシが骨折でテオ・プルシェールと交代するようなことにならなければやはり前を走っていたかもしれない)。パロウと選手権を争うチームメイトのディクソンは3位表彰台に登ったあと、差を詰める絶好の機会を活かしきれなかった結果について、ため息まじりに述べたという。「最後の10周で、何人かがパロウのために道を空けてくれた」。終盤にかぎらずパロウは周囲に助けられた。助けた最大の「功労者」がだれだったかは明らかだ。ペンスキーはいま、自分たちらしさをますます鮮明にして、追わなければならない相手をむしろ楽にしてしまっている。パロウは昨季とおなじく独走態勢に入った。それを組織的に止めようとせず自由に振る舞うペンスキーのチームカラーがそのまま現状に反映していると言われたら、そのとおりだと頷くしかない。■

レースはアンドレッティ・グローバルの1-2フィニッシュ。カークウッド(後)はハータに圧力をかけず、隊列の維持を重視したと語った。この統制はペンスキーにないものか

Photos by Penske Entertainment :
Chris Owens (1, 4)
Joe Skibinski (2, 3)

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