【2021.5.1-2】
インディカー・シリーズ第3戦 ジェネシス300(レース1)
インディカー・シリーズ第4戦 XPEL375(レース2)
(テキサス・モーター・スピードウェイ)
目の前の手品師がテーブルに敷いたベロア生地の敷布の上に箱から出したばかりの52枚のトランプを鮮やかな手つきで均等に広げ、上品ながら余裕綽々といった風情の笑みを浮かべ、どうぞ、お好きなカードを1枚選んでくださいと言うのだった。あなたはわずか逡巡したのち、何を選んでも大差ないだろうと考えて、規則正しく表向きに並んだカードの列から、ほとんど無作為に、真ん中少し右に位置するスペードの3に指を置いた。手品師は頷いて51枚を左手に束ね、選ばれたカードだけをテーブルに残す。スペードの3です、まちがいないですね? あなたが頷きを返すと、手品師は、たしかにあなたが選んだものだとわかるようになにか書いてもらいましょうか、と懐から文房具店でよく見かけるサインペンを取り出す。手渡された黒いペンをつい疑り深く検めてみたりもするがどうやらただの市販品で、キャップを外して余白に名前を書き入れることにする。あなたのお名前ですか? いやまあ適当な人名です。短いやり取りののち、手品師はまた首を縦に振ってスペードの3をあなたや周りで見守る観客に向け、穏やかな笑みを崩さずに、どなたかの名前が入った世界で唯一のカードがここにありますと告げ、デックの中央あたりに差し込んでぴたりと揃えた。52枚の束の一辺をぱらぱらと軽く弾き、手品師は言う。さて、あなたが選んだカードは非常に「アンビシャス」ですから、わたしが合図を出せば他のカードを押しのけて自分で上にのぼってきます。このとおり。指が打ち鳴らされる音が響き、次に一番上のカードが表に返される――スペードの3、サイン。
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