【2019.7.20】
インディカー・シリーズ第12戦 アイオワ300
(アイオワ・スピードウェイ)
先週のトロントでウィル・パワーが犯した2度のミスについて考えると、批判的に溜息をつくよりまず悲痛の念が先に立つ。傍目にはとうてい無理なパッシングに臨んで周囲を巻き込みながら事故に至った暴発的な運動も、ブレーキをロックさせてタイヤバリアへほとんど垂直に突き刺さる単純な失策も、彼がいま直面している状況と、困難をなんとしてでも打破したいと切に願う気持ちを思えばありうべきことだと同情的に受け止めたくなる。まして、フロントノーズがバリアに深く食い込むに至りながらもなお諦めきれずに脱出を試み、一帯に白煙が立ち込めるほどタイヤを激しくホイルスピンさせつつ後退しようとして果たせなかったその姿を見れば、彼を支配する感情が、周囲に悪意をばらまく苛立ちではなく、ただ自身の内側に向いたやるせない寂寥感なのではないかと想像して、観客側でしかない人間でさえ心を痛めてしまうのだ。今日もまた、これまでとおなじように、なにも成すことができなかったという失望。もはや笑うしかない諦め。そうした哀愁が、不調に陥ったときのパワーからはよく見える。見えすぎると言ってもいいだろう。そのありかたはシリーズ・チャンピオンとインディアナポリス500マイルの両方を手中に収めた稀代のドライバーをことさら人間的な魅力で彩るが、同時に才能の鋭さとは裏腹の弱点として彼を突き刺している。
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