【2022.3.20】
インディカー・シリーズ第2戦
XPEL 375(テキサス・モーター・スピードウェイ)
当然、レースが始まる前からとっくにわかりきった成り行きだったのである。スコット・マクロクリンは、先の開幕戦でインディカーにたしかな足跡を残したばかりだった。驚くべき予選アタックでポール・ポジションを獲得し、スタート直後から後続を突き放して、フルコース・コーションにも囚われることなく、最後には追いすがる昨季のチャンピオンを周到に振り払って逃げ切ってみせる。マクロクリンが過ごしたセント・ピーターズバーグの顛末に非の打ちどころがあるはずもなかった。感嘆に満ちた初優勝は、つい半年前まで抱いていた彼への凡庸な、いや凡庸と言うにさえ及ばない印象をたったひとつのレースであらためさせた。観客の立場で眺めていると、こんなふうにレーシングドライバーが一夜にしてそのありかたを激変させる瞬間があるように思える。それは当たり前かもしれない。われわれは彼らを2週間に1度だかの頻度でしか行われないレースで不連続に知る以外なく、レースにおいてさえほとんどの場面で彼らは視界の外にいる。萌芽を見る機会に恵まれたとしてもたいてい偶然で、多くの場合、花が開いてはじめてその存在に気付かされるのだ。唐突な邂逅に至るまでにあった成長の過程を観客は知る由もない。ただ、過程を知らないからこそなおさら、開花に立ち会ったときに経てきた時間を想像し、そこにはすでに才能が充溢していると信じるべきであるだろう。豹変を侮ってはならない。
続きを読む