【2018.8.19】
インディカー・シリーズ第14戦 ABCサプライ500(ポコノ)
3年前のポコノ・レースウェイで、先頭を走っていたセージ・カラムが何の前触れもなく単独スピンを喫したとき、隊列のはるか後方を走っていたジャスティン・ウィルソンに降りかかる運命を予測できた者などいなかっただろう。あまり評判は芳しいとはいえないが、初優勝まであと少しのところを走っていた新人の車は、異常を発したのかただ何らかのミスの結果そうなったのか突如として後輪を振り出し、白煙を上げながら回転して後ろ向きに壁へと突き刺さった。そのときまず深刻に見えたのはカラムの状態であり、それ以上の危機を想像できようはずはなかった。本人の無事さえ確認できれば、あとはイエロー・コーション中にリプレイを眺めながら事故の原因をああでもないこうでもないと推測しながらリスタートを待つ、そんなふうにさして特別でもないインディカーの日常として過ぎていくような出来事だったのだ。ウィルソンはカラムの事故について何らの関わりを持たなかったし、それどころか10台か11台も隔てたずいぶん遠い場所にいた。だというのに、あの事故を思い出そうとすると、大破したカラムの車の脇を糸の切れた操り人形のように意思なく転がり――実際、もはやだれの制御下にもなかった――、コンクリートウォールに引っかかって止まった25号車のコクピットに覗くウィルソンのヘルメットが微動だにしない映像が脳裏に蘇ってしまう(ドライバーは確実に意識を失っていたのだが、中継クルーも事の重大さを想像できずにいたのか、その模様をずいぶんとアップで映していたと記憶している。普通ならありえないことだ)。事故によって飛び散った破片のうち比較的大きなひとつが偶発的に舞い上がって2〜3度路面を跳ねたのち、なんの因果もなく彼の頭部に落ちてきた、顛末はそれだけといえばそれだけのことである。そこには意味も必然性も見出せないし、戯曲めいた悲劇の予兆があるわけでもなかった。当事者のカラムが無事に車から降りた以上、事故自体は結局のところありふれた様態のひとつだった。だというのに、結果としてウィルソンの命が失われた事実はある。きっかけが些細で典型的ななりゆきだったとしても、結末までそうであるとは限らない。どれだけ安全対策が進んでも、不幸な偶然はつねにその射程の外に置かれている。
続きを読む