【2019.8.24】
インディカー・シリーズ第15戦
ボンマリート・オートモーティブ・グループ500
(ワールドワイド・テクノロジー・レースウェイ)
見た目の様子こそまるで違っていたが、グリーン・フラッグが振られて数秒、2列ローリングスタートによって火蓋の切られたワールドワイド・テクノロジー・レースウェイ(旧称に倣って以後は「ゲートウェイ」と記そう)に、わずか6日前のポコノでの苦い出来事が蘇るかと思われた。5番手からレースを始めた佐藤琢磨が、フラッグに加速を合わせられなかったのか一斉に後続から攻め立てられ、狭い――先週のポコノよりはるかに狭い――ターン1の手前で目を疑う5ワイドの中心に置かれた場面である。スタートが告げられた瞬間にはすでにジェームズ・ヒンチクリフが内に潜り込んでおり、2~3秒のうちにライアン・ハンター=レイがすぐ外に並びかけた。最内ではアレキサンダー・ロッシが空間を窺い、大外にはフェリックス・ローゼンクヴィストが勢いよく迫っている。佐藤はその文字どおり真ん中で身動きが取れず、さらに目の前のスコット・ディクソンにも行く手を阻まれる形となってどうにも退かざるを得なくなったようだった。だが以後のレース中にも何人もの足を掬ったゲートウェイの滑りやすい路面はこのときもまったくグリップせず、コーナリングに備えて外へと寄ってきたヒンチクリフに煽られた佐藤はわずかに挙動を乱す。さらに集団の中でダウンフォースを失った影響もあったのか、アンダーステアの症状をきたして外へと膨らみながら失速したところに、いったん自重ぎみに進入を遅らせてきていたハンター=レイが重なった。佐藤の右後輪が、ハンター=レイの車の側面に入り込み、サイドポンツーンに触れるのがわかった。それこそはあの破局を想像する一瞬だったが、内でかろうじて制御をとどめた佐藤と危険を察知して外へと逃げたハンター=レイの軌跡がもう交錯することはなく、両者は無事にターン2へと走り抜けていった。佐藤は大きく速度を落とし、ほんの数百メートルを走っただけのあいだに、順位を8つも失った。彼にとって困難なレースの始まりで、2時間後に優勝を手にするなど、まだ思いもよらなかった。(↓)
続きを読む →